「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する株式会社ほぼ日が3月中旬に上場予定という記事を、日経新聞が報じていました。昨年12月に社名を「東京糸井重里事務所」から「ほぼ日」に変更。着々と進めてきた準備がいよいよ現実に。このブログでも「
堤清二から糸井重里へ」とか「
ほぼ日と上場」などと糸井重里氏や「ほぼ日」について触れたことがありました。
糸井重里氏の個人会社から組織企業への脱皮は、いまのところとてもうまくいっているようです。「ほぼ日」の上場は、トップ個人の作家性が企業価値を大きく左右する、いわゆるアトリエ系の事務所が組織会社へと発展していく際の一つの選択肢として、今後目標とされるのではないか。
2017年8月期の「ほぼ日」の売上高は前期比1%増の38億円、税引利益は8%増の3億円、利益率約10%。中小企業として、かなりの優良企業。事業内容は「インターネットを利用したコンテンツ提供および商品の企画・販売」という小売事業が柱。売上の約7割を「ほぼ日手帳」が占めていることで、成長面できびしい評価もあるようですが、上場を機に何に資金を運用しどんなことを創造していくのか、とても楽しみです。
組織会社への成長発展や業績以外で、糸井重里氏の取り組みでわたしが勝手に大きな実績と思っていることがふたつあります。ひとつめは、「ほぼ日手帳」をはじめ、コンテンツや商品のほとんどが、読者の意見や参加を通じて開発した商品であること。「共創」という考え方を具現化するだけでなく、「共創」そのものを「ほぼ日」の企業価値の軸として、利益を生み出す「ほぼ日」の生態系を作り上げている。プロダクトアウト的なコンテンツがあるとすれば、糸井重里氏が毎日更新しているエッセイ「今日のダーリン」ぐらいでは。
もう一つは、「ほぼ日」の文体。読者もその場に同席しているかのような気分で読める、やわらかな書き口。日常では使わないような難しい言葉は使わず、決して「盛る」ことなく、おしゃべりを聞いているような「ほぼ日」の文体。誠実さと真摯さをまとった文体が「ほぼ日」への信頼、信用となり、「共創」の生態系を支えている。
ネット上にはさまざまなウェブサイトがありますが、独自の文体を作り上げたサイトは少ないですし、「ほぼ日」ほど完成度の高いサイトも少ない。「ほぼ日」については糸井重里氏自身の動向や商品、イベントなどが注目されがちですが、この文体の創造こそが「ほぼ日」の信用を支え、「共創」の要となっているのだと思います。上場の記事を読みながら、そんなことを考えました。
雑誌「SWITCH」3月号は、糸井重里氏の特集。この企画の成り立ちやコンテンツの一部は「ほぼ日」にも公開されていて、「SWITCH」編集部と時間をかけて共創により生み出されています。