GWの二日目。この日、
静岡シネ・ギャラリーで上映が始まった
『
180°SOUTH(ワンエイティ・サウス)』を観に行く。
1968年、
イヴォン・シュイナード(アウトドアブランドpatagonia創業者)と友人の
ダグ・トンプキンス(The North Face創業者)の二人の若者が、オンボロのバンに乗って南米チリのパタゴニアの山を目指して
旅に出る。それから40年後の2007年。この二人の旅を記録した映像に魅せられた青年の、彼らの
足跡を辿る旅のドキュメンタリー。
1993年、ぼくが32歳の時に創業した出版社はフィールドノート社といって、
最初に出版した雑誌が『静岡アウトドアガイド』。
この雑誌では、イヴォンやダグのように前人未到のフィールドには目もくれず、
伊豆半島や富士五湖、奥大井、浜名湖あたりでの、
親子連れでも安心して楽しめるフィールドを駆け巡っていた。
週末キャンプやハイキング、ルアー・フライ釣り、MTB、
カヌー、ダイビング、サーフィンからパラグライダー、熱気球まで、
時には日帰り温泉やら歴史散歩やら陶芸体験やら星空観測やら旨い蕎麦屋など、
屋外・郊外の興味をそそるネタなら、なんでも取材して回った。
「これも俺流アウトドアの楽しみ方だ!?」を編集の軸にして、
“アウトドア”なるものを精力的に、勝手に拡大解釈していったのだが、
その点では、それまでのハードコアな“アウトドア”の概念から
より気軽で身近な未開の地へと開拓していった、といえるもしれない(笑)。
身の危険を感じることなど滅多にない
(仮にあるとすれば、それは自分のなまった体と
いいかげんな性格からくる注意不足によるもの)
安全圏での取材時でも、ぬかりなく身にまとっていたのが、
ぼくには過剰な機能を備えた、そして高価な(本当にいい値段)
アウトドアブランド“patagonia”や“The North Face”のウェアだった。
イヴォンやダグから冒険心をお裾分けしていただいていた気分だった。
その二人は若い頃からの友人であり、20代後半に二人の人生に大きな影響を与える旅に出た。
そして、帰国後にそれぞれが立ち上げた会社が、今では世界中の誰もが知っている
アウトドア・ブランドの最高峰“patagonia”と“The North Face”だ。
映画のタイトル『180°SOUTH』は、パタゴニア(南米チリ)の位置する南緯180°
を指してはいる。と同時に、映画の中の重要な場面で繰り返し“180°”がでてくる。
イヴォンとダグのパタゴニアへの旅は、その後のふたりの世界観を180°変えるものとなる。
40年後、青年は念願だったパタゴニアの高峰コルコバド山登頂を目前にして、
危険な状況を見て登頂を断念、下山(180°方向転換)を決意する。
それは後退ではなく前進であり、
「登頂という“聖杯”が重要なのではなく、“聖杯”を“探求”することに意味がある」
ことを、青年は時間をかけながら学んでいく。
映画の最後にダグは、こう問いかける。
「人は皆、後戻りできないと言うが、目の前が崖なら…
そのまま突き進むか、まわれ右をして前に進むか、どっちがいいと思う?」
この映画を通じて一貫して伝わってくるメッセージは、
「問題をずっと食い止めておくことはできない。
世界中の様々な問題を解決する方法は、
一度方向転換をして前進(180°の前進)すること」
180°といっても同じ場所に戻るのではなく、
螺旋して、もといた場所の少し先に前進するイメージか。
ダグの言葉は
「今回の大震災から、あたなたちはどのような復興を選ぶのか」
と問いかけているようにも聞こえる。
映画の中で、イヴォンは“patagonia”のウェアを着て、
エンドロールにもロゴが記されていたのに対し、
この映画のどこにも“The North Face”の片鱗を見ることはなかった。
今では世界的な規模に成長した大企業のふたりの創業者の、
自分の理念と事業(ビジネス)の折り合いのつけ方、
スタンス、現在の関係性の違いなのだろう。
どんな理念を持って始めた事業でも、
いつか、どこかで、ある一線を越えてしまう可能性を
すべての企業は常に秘めている…、
そんなことをエンドロールを見ながら考えさせられる。