1年半ほど前から通っているギター教室のI先生に借りた
堀田善衛の『オリーブの樹の蔭にースペイン430日』(集英社)を読了。
堀田善衛氏が暮らしていたスペイン・グラダナの隣村に、同時期にI先生もフラメンコ・ギター留学をしていて、偶然にもグラナダの堀田さんのお宅に伺ったことがあるのだそう。
確かに本書の中でも「幾人もの日本人がギターを学びに来ている」と書いているのですが、I先生もその中の一人だったというわけですね……▼日記は、1977年7月17日から始まり、翌78年9月12日に終わっている。この間、1日も欠かさず書かれている。
日記を本にまとめたものは数多く出版されていますが、毎日書いているものは、案外と少ないのではないか。
著者の意思によって選ばれた日だけで構成された日記本を読むときは、記してある日の出来事よりも、書かれていない日をどう過ごしていたのか、勝手に想像してしまって落ち着かない。
『オリーブの樹の蔭に』を読みながら、日めくりカレンダーを毎日めくるように、連続する一日一日を追体験できることこそ日記本のおもしろさではないかと気づく。
内容と言えば、その日の天候や食事、物価、体調、電話や手紙の相手やその内容、読んでいる本のこと、友人や隣人との会話、買物etc…。
小説や映画のような特別なこととは無縁の、ささやかな日常の繰り返しなのだけれど、それこそが普通の幸せな生活…。
この本は帰国した翌々年、1980年6月に発行されている。
いまならブログを書きつつ出版なのか。
堀田氏のスペイン生活に同行した夫人の言葉。
「わたしは要するに市場通いだけの経験ですけれど…という条件付きで…、ヨーロッパの生活の方が不便は不便だとしても、ノーマルだと思う。
なぜなら、インフレはあってもそれは工業製品にほとんど限ったことであって、食料品などは安く、旬のものが出盛れば必ず値段が下がってくる。昨日より今日の方が安くなっている。
それがノーマルな生活というものだ。
日本ではそういうことはない。キャベツやタマネギが出盛って値段が下がろうとすると、畑でトラクターなどで踏み潰してまで高値を維持しようとする。…それに(こちらは)公共料金などの値上げなども一年に一度もないらしい。生活者としては安心していられる。
こっちの方が安定感と充実感をもてる。能率や効率などよりも、しきたりや伝統を重んじるからはじめは面喰らったが、なれてみれば能率や効率などより、生活感の充実したシキタリ優先の方が文化的であり、文明そのものでさえあろう」
1978年、今から30年前の言葉。