『ハーブ&ドロシー』普通の生活って、こんなにも自由だったんだ
楽しみにしていたドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』を、「Shizubi シネマアワー」@静岡市美術館で観てきました。80名定員のところ130名以上も集まり、会場は大盛況。

内容は、生活の合間に、趣味でお気に入りのアート作品を買い集め、いつの間にか世界屈指の現代アートコレクターになっていた、 ニューヨークに暮らす元郵便局員のハーブと元図書館司書のドロシー夫妻の実話。
「自分たちの収入内で買える作品であること」「1LDKの小さなアパートに収まるサイズであること」というとてもシンプルな基準で、ふたりは40年以上かけて4000点以上ものアート作品をコレクションしてしまう。そして、買った作品は絶対に売らない。ふたりにとって芸術は投資の対象ではなく、経済でもなく、純粋に好きだから、気に入ったから、側に置いておきたいもの。壁にかけて、見ることができなくてもかまわない。

「本だって全部を毎日読んでないけど、本棚にしまっておくでしょ。いつも全部を見る必要はないわ。いつでもそこにあって見られることが大切なの」とドロシー。80代後半になり、有名人にもなった夫妻ですが、きっとこれまでの数十年の暮らしとちっとも変わらない日常を送るのではないかな。

この映画について「温かい気持ちになった」「信念を持って生きるっていい」などなど、いろいろな感想が聞かれます。わたしの場合は「普通の生活でも、こんなに自由に生きられるんだ」と、あらためて気づかされた思いです。わたしたちは何かをやろうとする際に、大志を抱いて一念発起しなくては…とか、ビジネス書や自己啓発本などを読んでまずは計画をたてなきゃ…などと思いがちですが、二人を見ていると、多少のユーモアと情熱があれば、何かを成し遂げられるし、普通の暮らしでも、十分に人生を楽しくできるんじゃないか、ということを教えられた気がします。

一方で、誰もが求める、旅行や快適な家などの、いわゆる豊かな暮らしには近づこうとしなかった。自分たちに必要のないものは、とことん削ぎ落として暮らしてきた、そこにこそふたりの特異さが際立ってみえる。

散歩するようにアーチストを訪ね、ささやかな予算で気に入った作品を買い集めるハーブを見ながら、同じく散歩好きで幅広いコレクターだった植草甚一氏を思い出しました。

映画『ハーブ&ドロシー』は、22日から静岡シネギャラリーで上映されています。


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海野 尚史 HISASHI UNNO

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