午後からAOIへ。今回初演となるオペラ《ポポイ》を観てきました。原作は倉橋由美子、脚本・音楽・指揮を間宮芳生、演出は田中ミン……▼あらすじを紹介するとこんなお話です……

21世紀半ばの近未来。日本政界の陰の大物である元老の屋敷に押し入った二人のテロ少年が、テロに失敗して自決。若い方の少年の首を同志がはねる。切られた少年の首は、その場で生命維持装置の人工心肺につながれ、首だけの人間になって研究室で生き延びる。

秘密保持のために少年の首は元老の孫娘・ヒロイン舞(まい)があずかり、世話をすることに。そして、舞は首にポポイと名づけ、ふたりの交流がはじまります。

彼女の明るさと奔放さ、そして教養に、少年ポポイの心は開かれ、泣き、笑い、音楽を聴き、そして異性への思慕もはじめて知ってゆく。

舞との交流を通じてポポイの魂は解放されていきますが、やがて首だけのポポイは急激な老化がはじまり、舞はポポイを自らの手により葬ることを決意する……

あらすじから想像すると、近未来の、深窓令嬢と生首だけの少年ポポイとの奇想天外なお話という印象を受けるかもしれませんが、首から下の肉体を失ったポポイの設定や、田中ミンの抑制された演出は、生命や成長、愛などのテーマをシンプルに際立たせ、青春ドラマとして素直に楽しめました。

ヒロインの舞役を演じた吉川真澄さんのソプラノには、ポポイに生きる希望をあたえるだけの艶やかな魅力があり、また、政界のドン入江役を演じたのは清水寛二氏という能楽師でした(わたしははじめて知りました)が、世の中の善悪を知り抜いた政界の黒幕である入江にぴったりのキャスティングであり、演出だったと思います。

普段はオペラを楽しむ習慣のないわたしですが、AOIのスタッフの「オペラ《ポポイ》は、楽しめるかどうかは人それぞれですが、この価格で静岡でオペラ観ることができるというだけでも価値がありますよ。騙されたと思って…」という言葉にしたがって正解でした(笑)。


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海野 尚史 HISASHI UNNO

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