文庫本

久しぶりに近所の古書店にでかけました。店先に出された均一棚の中に向田邦子の『父の詫び状』(文春文庫)を見つけ、パラパラと拾い読みしようとしたのですが、あまりに文字が小さくて目の焦点があわず、一瞬めまいがしてしまいました(笑)……▼手にした『父の詫び状』の奥付を見ると、今から27年前の1982年に刷られたもの。

めまいがしたのは、もちろん多分に年齢のせいではありますが、少し言い訳させていただくならば、当時の文庫本の本文に使用されたフォントサイズは今よりも随分と小さかった。

出版社により若干違いますが、たしか70年代から80年前後の文庫本に使用されていた文字は、7.5ポイントか8ポイントほどではなかったか。

現在の文庫本は、9ポイントまたはそれよりもさらに大きなフォントを使用しているはず。こちらは勝手にそのつもりでページを開いたところに、突然7.5ポイントという小さな文字が、ぎっしり詰まった黒いページが目の前に現れたというわけであります。

視力検査にもつかえそうなほど小さな文字がぎっしり詰まった岩波文庫あたりを、当時は何不自由なく読んでいたこと自体が、不思議に思えてきます。

いまでは、文庫本に限らず書籍も雑誌も文字は全般的に大きくなり、随分と読みやすいものになりました。

もうひとつ当時の文庫本について付け加えるならば、文庫本の価格の目安は“1Pあたり約1円”という計算が成り立っていたような記憶があります。

つまり、200Pならば、おおむね200円前後、400Pであればだいたい400円という値段(すべての出版社にあてはまっていたかどうかはわかりません)で、それほど外れていなかった。

90年代に入ってからは、文庫本の価格も随分と値上がりしました。最近では、気に入った文庫本を書店の棚から抜き出し、レジに向かう途中で値段と財布の中身と相談して、あわてて棚に戻す(笑)、そんなこともあります。

話は変わりますが、10代の前半の年頃、はじめて手にする、文字がぎっしりと詰まった、なんの愛想もない文庫本は、その読み手に媚びない雰囲気が、大人の世界に触れるような感覚を抱かせてくれたように記憶してますが、今の10代の若者にもそのような感覚はあるのでしょうか。

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