ここ数年、出版界にとって旗色の悪い話題が多い中で、先月(2009年2月)『雑誌よ、甦れ』(高橋文夫著、晶文社)が出版されました……副題に「〈情報津波〉時代のジャーナリズム」とありますように、インターネットが登場して以来の情報デジタル化時代に、アナログメディアである雑誌はどう生き残るのか、

雑誌の置かれている環境と雑誌メディアの強みを再確認して、雑誌ならではの強みに選択と集中をしよう、という内容です。

雑誌メディアが、今置かれている状況を整理したい、という方には参考になる一冊です。

その一方で、著者が前書きで書いている「編集者、編集者の卵たち、編集希望者、広告・販売担当者など、雑誌や活字メディアに関わる人たちへのエール」という点で、著者の思いがどれほど雑誌・活字メディア人を勇気づけることに成功したかは、疑問が残りました。

情報デジタル化で起きている情報量の“爆発的”な増加現象について、最近は「情報津波」などの、いろいろな言葉で表現されています。

そこで増えている情報には、プロが生み出す一次情報(ニュース、活字・映像メディアなど)と一次情報の複製、一次情報が生み出される前後の情報とその複製、個人が生み出す一次情報とその複製、そしてこれまでは情報として扱われていなかった会話やデータ、などさまざまなものが含まれています。

扱いに戸惑ってしまうのは、それらの雑多な情報が独立しているのではなく、複雑につながりはじめている、こと。リコメンドや“行動ターゲティング”技術なども、ますます研ぎすまされていくでしょう。

メディアを取り巻く環境の変化は、まだはじまったばかり、と考えたほうがよさそうです。雑誌においては、変化する強みと変わらない強み、のふたつに分けて考えてみる。

帯には、出版ニュース社代表・清田氏の「雑誌再生なくして、活字文化の興隆もなし」というコトバが書かれています。まずは再生させたい雑誌メディアに期待するイメージを、雑誌の作り手と生活者間で共有することが大切かもしれません。

「雑誌を復活させるヒント」を期待して本書を読むことはおすすめしませんが、出版界や新聞社などの活字メディア業界に長く携わってきた方、とくにベテランといわれる方には読みやすい一冊だと思います。

■『雑誌よ甦れ -「情報津波」時代のジャーナリズム』高橋文夫著 晶文社 ソフトカバー ISBN978-4-7949-6740-4

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