先日、軍事アナリスト・小川和久氏のスパイとジャーナリストの情報収集についての話を聞く機会があり、10年以上も前に発行された『KGBの世界都市ガイド』を久しぶりに読み返してしまった。
この表紙を見ると、まるで映画『裏切りのサーカス』に登場する“サーカス”のメンバーにもみえる。コントロールを真ん中にして、ティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマンが並ぶ。『裏切りのサーカス』と違うのは、彼らはSIS(イギリス秘密情報部)のエリート諜報部員で、『KGBの世界都市ガイド』に登場する諜報部員は、“サーカス”のなかに“モグラ”を忍び込ませた“カーラ”の同僚、ソ連のKGB(国家保安委員会)のエリートたちということ。
本書は、その元エリート諜報部員たちによる、ロンドン、パリ、東京、ニューヨーク、バンコク…など、海外主要都市ガイドなのだ。それぞれの都市を舞台に、協力者をリクルートする方法、スパイの日常に欠かせない観光スポット、情報提供者との接触に便利なレストラン、尾行をまくのに最適な散策コースなど、裏側から見た世界都市紹介となっている。冷戦時代、「泣く子も黙る」と恐れられていたソ連のKGBたちによるユーモアあふれる語り口の落差に驚くが、諜報活動では時としてユーモアが大きな武器になるということなのだろう。
「国家でさえもウソを話す。時には、話している本人もウソであることに気づいていない」「情報収集とはジグソーパズルのピースをはめ込んでいく作業」「情報はそれを取りにいった人間のレベルでしか収集できない」などなど、小川和久氏の経験に裏打ちされた話は、スパイやジャーナリストだけでなく、すべての市井のメディアにも通じることなのだ。
