クリスマスで思い出すのが、今から20年以上も前にサンタクロース村で飲んだ黒ビールの味。サンタクロース村は、フィンランドのラップランド地方、北極圏にほど近いロヴァニエミという町にある。ヘルシンキから寝台列車に乗って12時間ほどの距離。1991年のとある日、一晩電車に揺られて、翌朝早くにロヴァニエミ駅へ。駅からバスに乗り換え、たどりついたのは朝10時ごろだったと記憶している。ヘルシンキから12時間プラスαもかけて出かけたにもかかわらず、その日サンタクロースはどこかの国の子供たちのところに出かけていたのか、まだ出勤前だったのかわからないが、あの赤い司祭服?の姿はどこにも見えず。出迎えてくれたのは、柵の中でのんびり草を食む3~4頭のトナカイだけだった。みかけはふつうのトナカイだけど、彼らはサンタクロースのお供たちである。気のせいか思慮深そうに、そして、彼らは何食わぬ顔で人の言葉も理解しているのではないかと、などと勝手に妄想が働く。
いまはどうなっているのかわからないが、当時はトナカイの柵の隣に、本当にちっちゃなサンタクロース郵便局があった。そこで、当時小学生だった姪宛にサンタクロースさんから手紙を送ってほしい、と書き置きを残した。そして、帰りのバスまでの空いた時間に、郵便局のとなりの土産物店で飲んだのが、先の黒ビールだった。「地元で作っている」と売り子さんに薦められたビールは、常温に近い温度で、ドロッとした口当たり。強い苦みと酸味がありながら、それらを甘さが包む濃厚な味だった。それまで飲んだことのあるどのビールとも違う不思議な感覚だった。ゆっくりと味わっているうちに、その複雑な味覚がはっきりと感じられるようになり、冷えた体はしだいに温まっていった。あの濃厚な味の魅力はいまだに忘れられないでいる。クリスマス時期の飲み会などで、いまでもあの時の黒ビールの味を時々思い出すことがある。
ずいぶん前置きが長くなってしまったが、最近、あの時のサンタ村のビールのことを久しぶりに思い出した。先日、静岡市でクラフトビール作りを始めた「AOI Brewing」(アオイ・ブリューイング)の社長・満藤直樹さんにビールのお話を聞きながら、あれは「スタウト」というエールビールのロヴァミニエ・バージョンだったのだろうと思いいたったのだ。北極圏仕様の、アルコール度数高めのサンタ村特製「スタウト」ビール。
実は、その満藤さんも、この冬のクリスマスに向けてクリスマスビールを仕込んでいるのだそうだ。クリスマスが特別なイベントではなくなって久しいが、今年は満藤さんのクリスマス・ビールを味わえる楽しみができた。
(…それから、あの冬、「サンタさんから手紙が届いたよ」と姪から電話をもらった。姿は見せなかったけど、置き手紙の約束を守ってくれたサンタのことを、ちょっといいヤツだなと思ったことを覚えている)
「AOI Brewing」満藤直樹さんのインタビューノート【日刊いーしず】
・第1回 http://interview.eshizuoka.jp/e1399949.html
・第2回 http://interview.eshizuoka.jp/e1403431.html
AOI Brewingの満堂直樹社長(左手)と醸造責任者・高浩一さん(右手)