韓国南東部の大邱(テグ)駅で今朝、ソウル行き急行列車と韓国高速鉄道(KTX)列車の追突事故があった。この夏、韓国高速鉄道(KTX)に乗って釜山から大邱駅を通過してソウルへと出かけたばかりで、自然と新聞記事に目が向いてしまう。そして、その旅行中、九州新幹線で相席となったアメリカ人のルーディー(
ルーディーのことはこちら)のひと言を思い出した。
「
新幹線って早いよな。アメリカには、こんな早い列車はないよ。
ところで、こんなに早いのに、なぜシートベルトがないんだ!?」
たしかに、新幹線にはシートベルトがない。というか、そんなこと考えたこともなかった。
「
普通は飛行機に乗っちゃうからね。安いし…」と言っていたルーディーは
きっと新幹線と飛行機を比較していたんだと思う。
「新幹線は開業以来50年間、事故がないんだ。とても安全なんだ。
だから(なくても)大丈夫さ」
(新潟県中越地震の際、上越新幹線での列車脱線事故を除けば)
などと、テキトーに答えてしまったが、
韓国高速鉄道(KTX)
(こちらにもシートベルトはなかった)の事故のニュースを読んで、
事故が起きてから安全対策しても遅いよな、あの説明は適切ではなかったなあと反省した。
朝8時前、釜山港に入港するフェリーから釜山市を眺める。

話は変わるが、釜山には下関19時発のフェリーに乗り、翌朝8時に下船した。フェリーでの
一泊は2等船室の6人部屋。二人の韓国人の若者とわたしの3人が相部屋となった。
一人は、今年4月から日本の大学に留学しているキム・テユ君、18歳。
初めての夏休み、初めての帰省で、実家のある大邱市に帰るところ。
「一人暮らしは楽しい?」と聞いてみると「
料理、掃除、洗濯…、それだけで大変です」と
一人暮らし初心者らしい正統的な返事。実家に帰るのは楽しみ?という質問には
「
母さんのキムチを、早く食べたい」と、絵に描いたように素直な言葉が…、
オムニに聞かせてあげたい。
もう一人の韓国人は、林相秀(リン・サン・スー)さん、33歳。北九州観光の帰り。
「夏休みですか」と、あたりまえのことを聞いてみる。
「
そう、夏休みです。ずっと休み、わたし年中休み…」と苦笑い。
実は失業中なのだという。よくよく聞いてみると、本人は元映画製作会社のディレクター。
現在は会社を辞め、月曜から金曜日までは映画のシナリオを執筆し、
週末はアルバイトという生活なのだそうだ。
「
自分が書いているシナリオが採用される保証はどこにもないし、
このままこんな生活していて大丈夫だろうか。
今回の旅行も、お金のないぼくをお母さんとお姉さんが連れてきてくれたんです…」
と、消え入りそうな声で話してくれた。
「韓国の映画界は、活気がありますよね。話題作も多い。チャンスも多いのでは」
とフォローにもならない言葉が口からでる。
「
ぼくは日本の映画が好きなんです。書きたいのは“Nobody Knows”みたいな作品」
“Nobody Knows”って日本題は何だったかと、ぼくとキム君とで顔を見合わせ、
是枝裕和監督の『誰も知らない』だったと思い出す。
林さんが手にしていた本は、お姉さんから借りてきたという韓国で翻訳されたばかりの村上春樹の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。林さんに、村上春樹と村上龍のどちらが好きかと聞かれ「若い頃は龍だったけど、いまは春樹かな」と応えると、「ぼくも同じ」と林さん。理由までは聞かなかった。
一方のキム君が読んでいたのは、漫画『金田一少年の事件簿』。
日本びいきの二人のおかげで、退屈することなくフェリーで一泊過ごすことができた。