電子書籍と電子タバコ
2010年は「電子書籍元年」ということを、昨年後半あたりから出版業界界隈で聞くことが増えた。出版関係の方でなくても、ガジェット好きの方などは、耳にしたことがあるのではないでしょうか。1月4日に配信されたTBSの文化系トークラジオの「文化系大忘年会2010」part7(外伝2/2010年12月26日放送)をポッドキャストで聞いていたところ、ここでも「そろそろこれからの電子書籍の話をしよう」ということで、電子書籍にまつわる話題で盛り上がっていた。

現在(紙)の出版市場は、おおよそ2兆円。書籍と雑誌市場で、それぞれ約1兆円といわれている。一方、ケータイ小説やケータイコミックを含めて、電子書籍市場は約500億円といったところ。紙の出版市場(特に、雑誌ですね)が縮小するなかで、「電子書籍元年」という言葉からは、電子書籍市場への期待の大きさ(実際の市場はまだまだ小さいのですが)が感じられる。

6日に始まった米家電見本市でも、パナソニックやモトローラ、シャープ、サムスン等のタブレット端末が話題のようですが、現場におけるビジネススキームやマネタイズの議論があいまいなまま、デバイスの普及と電子書籍市場の成長が、あたかも、たしかなもののように結びつけている雰囲気が感じられます。

文化系大忘年会2010」part7(外伝2)では、津田大介氏の「つくられた電子書籍ブームの現状とデータ」であったり、仲俣暁生氏による「電子書籍ブームが出てきた3つの理由」「電子書籍というよりは広告ビジネス」「出版社がGoogleから学んだこと」など、現状の「電子書籍」をとりまく状況を棚卸しした視点から語っていて興味深い。誰の視点で語るのか(読み手か、コンテンツの創り手か、プラットフォーマーか、IT系システム開発会社かetc…)によっても見方は変わるし、コンテンツの創り手という視点でも、すでに紙の出版での実績のある書き手と、これから書き手を目指す人かにによっても違う。

日経BP社の柳瀬博一氏の「アマゾンは、流通ソリューションの改善」「キンドルは、通販ソリューションの発展型であり、ユーザーにとってはバリアフリー商材」であったり「電子端末で読むことの身体的ハードル」、なかでも「コンテンツ電子化の大きなメリットはデータベース活用であり、一番の受益者は、書き手や学者、学生、企画立案者などコンテンツの創り手である。創り手視点に立ったとき、インターフェースやビジネスモデルは、ガジェットのカタチは、現在の電子書籍にとらわれない新しいエディションが必要ではないか」という視点は新鮮。

電子書籍の新しい潮流の話に片寄りがちな中で、電子タバコを書籍のパッケージにして既存の書店流通網に流通させて、200万部を販売したという、宝島社の電子書籍と真逆の取り組みも目から鱗でした。静岡県内の書店流通、コンビニ流通サービスを行なっている弊社にとっても、宝島社のチャレンジはたのもしい事例。

2011年は、どんなカタチにせよ電子書籍という新しい潮流がさらに大きな波となることは間違いありません。新しいプレーヤーが登場し、編集者の役割も新しい役割とスキルが求められる。弊社もK-MIXさんと一緒に作った『静岡ジモトリップ』の電子版を昨年12月にリリースしました。大切なことは、どんなに出版のカタチが変わっても、ユーザー視点を忘れないことですね。


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