「死ぬまで出版で狂っていたい」とは、ただならぬ言葉。これは、8月に静岡市で行なわれた出版社マイタウン代表舟橋武志氏の講演タイトルです。

残念ながら、わたしは舟橋氏の講演は聞いていないのですが、今日訪問したM氏(M氏は静岡市の出版社社主)から出版人としての舟橋武志氏について、そして地方出版の現況についてお話を聞きました。実は8月の講演の講師として舟橋氏を紹介したのもM氏だそうです……▼日本の出版界には4000社を超える出版社があるといわれていますが、
その8割以上が東京にあるという特殊な業界。

さらに、1000人以上の社員を抱える大手出版社はほんの一握りで、
社員10人以下の零細出版社が9割以上を占めているといわれています。

なかでも地方の出版社は、超零細出版社がほとんどで、
その多くは社長一人で切り盛りしている一人出版社ではないでしょうか。

M氏と舟橋氏に共通しているのは、ともに地方の一人出版社の社主として、
M氏は静岡で、舟橋氏は名古屋で、30年以上も郷土出版を手がけてきた
生粋の地方出版人であること。

そしてお二人とも、
「出版を仕事とする」「出版で生きていく」
という姿勢を貫いてきました。

自分という1本の櫓を頼りに
大海原を渡る伝馬船のような地方出版社の生きる道については、
M氏からもいろいろ聞かせていただきましたが、
舟橋氏も講演で同じようなお話をされたようです。

いくつか紹介すると
・ベストセラーよりもロングセラー
・読者の対象は、不特定多数ではなく、特定少数
・地域を絞り、ジャンルを特定する
・立派な本より、見かけは悪くても安く作れる本
・「売れない前提で作る」ー初版は、多くても1000部。
・在庫は可能なかぎり持たない
そして
・会社は大きくしない。すべて自分でやる。
などでしょうか。

「出版で生きる」と腹をくくった舟橋氏や地方の出版人は、
自分の好きなこと、やりたいことをやる変わりに、
生活の安定は捨て、経済面での苦労などを
すべて自分一人で引き受けてきたわけです。

講演のタイトル「死ぬまで出版で狂っていたい」は、
舟橋氏やM氏のような、地方出版を支えてきた出版人
(なかでも一人出版社)の心の声として響いてきます。

「死ぬまで出版で狂っていたい」という言葉を受けとめたうえで、
それでも「出版を仕事にしたい」「出版で生きていく」
という若者がでてきてほしいものです。

わたしは、出版業とは、世間に何かを叫びたいパンク的精神をもった、
浮き沈みの激しいやくざな稼業だと思っていますが(笑)、
これからの若者たちは、きっと、
これまでの地方出版とは違う新しい発想とクールなビジネススタイルで
登場することでしょう。どんな登場の仕方をするか、とても楽しみです。

※M氏には、弊社で行なっている勉強会の講師をお引き受けいただきました。
もし、みなさんの中で参加してみたいという方がいましたら、
わたしのブログにコメントを入れてください。
詳細が決まりましたら、こちらからご連絡いたします。

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