朝日新聞夕刊で連載されていた「わが町で本を出す」(ニッポン人脈記)が終わりました。日本の地方出版を支えてきた出版人をたどる記事として興味深い連載でしたし、タイムリーな企画だったと思います。

わたしが出版を始めたのは90年代の初めでしたが、当時でも青森県の出版社「津軽書房」の高橋彰一さんや福岡「葦書房」の久本三多さんの活躍は伝説のように語られていましたし、彼らの少し下の世代にあたる秋田「無明舎」のあんばいこうさんや、沖縄の「ボーダーインク」の新城和博さんには、勝手にライバル心を抱かせていただきました。……▼連載で取り上げられたのは書籍出版を主とした出版社。地方の歴史や文化、自然、伝統などを記録として残すという役割も担ってきましたが、中には津軽書房の高橋彰一さんのように青森から直木賞を受賞するような本を世の中に送り出した出版人もいました。

冒頭、この企画はタイムリーだったと書きましたが、そのような出版人もいまでは亡くなられたり高齢になったりで、地方出版の世界においても世代交代が大きな課題となっています。

地方の時代といわれながら、現実にはますます地方の個性は失われつつあります。それに、はたして地方の歴史や文化をわたしたちは未来の子どもたちにしっかりと残していけるのか。

本という形体にこだわる必要はありませんが、長いあいだ地方出版にたずさわってきた方に学べることを今のうちに継承していく作業を始めなければ手遅れになるのではと、考えさせられました。
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