タンザニア商人を研究対象とする文化人類学者の本『チョンキンマンションのボスは知っている:アングラ経済の人類学』(小川さやか著、春秋社)。「誰も信頼できないし、状況によっては誰でも信頼できる」という、原始的な交易条件のもとで機能するアナログなシステムに興味が惹かれました。他者の「事情」に踏み込まず、メンバー相互の厳密な互酬性や義務と責任も問うことなく広がっていくネットワーク内の人々が、互いにそれぞれの「ついで」にできることをする。「責任を帰す一貫した自己などない」という前提に立つことで、ある種の寛容さ(個々の行為の帰結を人物評価ー自己責任ーに結びつけて語らない)となるというのは発見でした。



海野 尚史 HISASHI UNNO

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