[雑誌]『フリースタイル』創業10年間、自己採点は65点雑誌『フリースタイル』を出版している出版社フリースタイルが、今月10周年を迎えたことを、社長兼たったひとりの編集者である吉田保氏が自分のブログで報告している。同社が10年で出版した本は41冊、1年平均で4冊。雑誌を始めてから3年は赤字だったそうだ。それでも個人で立ち上げた出版社が10年続いたことは、素晴らしいことだと思う。

少し前には「大手出版社の雑誌が休廃刊するというニュースが多い中で、一人出版社であることに可能性を感じている」というコメントを、自身のメールマガジンに書いていた。まわりをみまわしてみても、気のせいか(そうあってほしと願うわたしの思いがバイアスをかけていることも多分にあるのだろうが)元気よく感じられる雑誌は、小出版社のものが多い。

「フリースタイル」の表紙タイトルは平野甲賀、表紙イラストは松本大洋、執筆陣には片岡義男や小西康陽などを抱えていて、小出版社にしては、マス受けするかどうかはわからないが、それぞれの分野で自分の世界を切り拓いてきた魅力的な人々が関わっている。

昨年、仲俣暁生が発行するフリーペーパー『路地』のイベントでたまたま吉田氏が登場した時に、出版社フリースタイルには社員はおらず、吉田氏一人ですべて切り盛りしていると聞いて、驚いた記憶がある。

「フリースタイル」最新号では、漫画家江口寿史と浦沢直樹、いしかわじゅんと漫画評論家村上知彦の対談やインタビューのほかに、飯沢耕太郎、仲俣暁生、山崎浩一、久住昌之、南陀楼綾繁など、個性派メンバーを揃えている。

「編集者の力は、キャスティングとテーマ設定に現れる」というのがわたしの持論ですが、その点でも吉田氏は、今もっともいい仕事をしている雑誌編集者のひとりではないか。

ちなみに、フリースタイルを創業してからの10年間の吉田氏の自己採点は、65点なのだそう。自分に厳しいともとれるが、それ以上に吉田氏には、この10年間で実現できなかったやりたいことがまだまだ多くあり、目指すレベルが高い、のだろう。それとも、経営者としての自己評価がそうさせたのか。

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