須賀敦子の世界展

 横浜・港の見える丘公園の一角にある県立横浜市近代文学館で開催された「須賀敦子の世界展」。文学館の展示は概ね、作家の来歴を年表にしたコーナーと初版本などの作品展示などで構成されることが多い。それらの中で、つい時間をかけて見て(読んで)しまうのが、作家の直筆原稿と手紙の類いだ。

 「須賀敦子の世界展」でも、初期の頃の原稿(推敲のプロセスを垣間みることができる)のほか、留学先のフランスやイタリアから両親に送られた手紙や、最愛の夫ペッピーノ宛のもの、それから晩年のものでは、作家で評論家でもある松山巖氏宛の手紙など数多く展示されていて、じっくりと読み入ってしまった。若い頃のしっかりとした意思が伝わってくる筆致が、晩年は角がとれて小さな文字に変わっていく。一方で、ユーモアだけはずっと変わらない。そんな小さな変化を発見できるのも、直筆の手紙を見る楽しみである。作家の手紙ということでは、吉行淳之介が女優の宮城まり子に宛てた手紙も心を動かされるものがある。こちらは、掛川市のねむの木学園の敷地内にある吉行淳之介文学館で読むことができる。

 地方で文化・芸術に触れる施設として美術館やコンサートホールなどが話題にのぼることはあっても、地元の歴史や伝統、文芸などを扱う文学館や博物館について語られることは少ない。ひとびとに直接かたりかけることのできる「言葉」を扱う文学館などは、郷土にゆかりのある作家や作品などを通じて、地元の風土や歴史・文化を学ぶ教育的な役割もあると思えるのだけれど。
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